最大の成長機会は「量産にあり」 製造業での真の普及を狙う3Dプリンタの巨塔3Dプリンタニュース(1/2 ページ)

ストラタシス・ジャパンは、米Stratasys CEOのヨアブ・ザイーフ氏の来日にあわせ、東京都内でメディアラウンドテーブルを開催。グローバルにおける3Dプリンタ市場の動向や同社のポジション、そしてサステナビリティに対する取り組みについて、CEOが自ら説明した。

» 2025年06月17日 09時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 ストラタシス・ジャパンは2025年6月13日、米Stratasys CEO(最高経営責任者)のYoav Zeif(ヨアブ・ザイーフ)氏の来日にあわせ、東京都内でメディアラウンドテーブルを開催した。

 同ラウンドテーブルでは、グローバルにおけるアディティブマニュファクチャリング(以下、AM)市場の動向やStratasysのポジション、そしてサステナビリティに対する取り組みについて、ザイーフ氏が説明。続けて、ストラタシス・ジャパン 代表取締役社長のSunil Sharma(スニール・シャルマ)氏が、注目の新製品やソリューションなどを紹介した。

AM業界の「顔」としてのポジション、経営の強さをアピール

米Stratasys CEOのヨアブ・ザイーフ氏 米Stratasys CEOのヨアブ・ザイーフ氏

 冒頭、ザイーフ氏は「Stratasysは、グローバルにおいてAM業界の“顔”であるといえる。なぜなら、大手顧客と強固な関係を構築しながら、私たち自身が成長し、業界全体の成功に貢献しているからだ」と述べ、同社の好調さをアピールする。

 ザイーフ氏によれば、2万米ドル以上の価格帯におけるポリマー系産業用3Dプリンタ市場で、Stratasysは約25%のシェアを占めており、リーダー的立場にあるという。さらに、同社の年間売上高は約6億米ドルに達し、競合他社を大きく引き離している状況にあり、「業界内の公開企業の中で唯一、黒字経営を実現している」(ザイーフ氏)と強調する。

 さらに現在、Stratasysは世界中に3万5000台以上の産業用3Dプリンタを展開しており、2300件以上の特許、130以上のグローバルパートナーを有し、財務面でも強固な基盤を構築しているという。

Stratasysのビジネス概況について Stratasysのビジネス概況について[クリックで拡大] 出所:ストラタシス・ジャパン

 Stratasysの成長を支える柱は、「顧客の成功に貢献する」という明確なフォーカスにある。AMは複雑かつ高度な技術であり、ハードウェア、ソフトウェア、材料、サービスを連携させた、設計から製造までの完全なデジタルプロセスが求められる。

 そのため同社は、単なる装置販売ではなく、「適切なソリューションを、適切なアプリケーションにマッチさせること」および「最高のアプリケーションエンジニアとサービス体制を構築し、顧客が成果を上げられるよう、設計段階から支援すること」を重視し、ビジネスを展開してきたという。

 そして、この戦略を支えるのが、ハードウェア、ソフトウェア、材料の3つのプラットフォームだ。

 ハードウェア面では、PolyJet、SLA(光造形)、FDM(熱溶解積層)、P3(プログラマブル光重合)、SAF(Selective Absorption Fusion/選択的吸収結合)の5つの樹脂系3Dプリントテクノロジーを有しており、これにより、顧客のアプリケーションに最適な装置を提案できる体制を整えている。

5つの樹脂系3Dプリントテクノロジーを有するStratasys 5つの樹脂系3Dプリントテクノロジーを有するStratasys[クリックで拡大] 出所:ストラタシス・ジャパン

 ソフトウェア面では、「GrabCAD」を中核とし、設計から製造までのワークフローを統合管理できる環境を提供する。自社開発のみに頼らず、シミュレーション、レンダリング、トレーサビリティーといった機能についてはパートナー企業と連携することで実現し、これら全てを同一プラットフォーム上で統合しているという。

 材料については、「どんなに最高のハードウェアとソフトウェアがそろっていても、それらに適合する材料がなければ意味がない」(ザイーフ氏)とし、Stratasysでは130種類以上の材料を用途別に提供している。さらに、Forward AM Technologies(旧:BASF 3D Printing Solutions)のAM事業の買収により、50種類以上の材料が新たに加わったことで、より多様なニーズに対応可能な体制を整えている。

 このようなハードウェア、ソフトウェア、材料に関する包括的なプラットフォームを有している点が、Stratasysの最大の強みであり、「顧客が本当に必要とするものを提供できる体制を整えているからこそ、世界の優れた企業と強固なパートナーシップが築けている」とザイーフ氏は説明する。

 実際、GM(General Motors)、Boeing、Airbus、トヨタ自動車など、世界有数の企業14社のAM部門の責任者と連携し、業界の発展に向けて、Stratasysの今後のロードマップや取り組みの方向性をともに策定しているという。

 AM市場の成長について、ザイーフ氏は「これまでに2度のブームがあったが、実態としては価値を着実に提供し、業界を少しずつ変革しながら成長を続けてきた。派手さはないが、確かな成果として積み上がってきているのがAM業界の実情だ」と説明する。

2度のブームがありながらも地道に成長を遂げてきたAM市場 2度のブームがありながらも地道に成長を遂げてきたAM市場[クリックで拡大] 出所:ストラタシス・ジャパン

 そうした流れの中で、StratasysはAMならではの価値として、「市場投入までの時間と研究開発のスピード向上」「柔軟性と適応性によるサプライチェーンリスクの分散」「コストの最小化と少量生産における効率性の向上」「革新的かつ複雑なデザインや形状の実現」「サステナビリティ」「優れたカスタマイズ性」の6つを提供してきた。

 例えば、プロトタイプ(試作)や治具/工具、あるいは最終製品のパーツなどの製作にAMを活用することで、開発期間の短縮が可能になる。また、同じ装置で試作から量産まで行える点もAMならではの強みであり、こうした価値が、企業のイノベーション創出に大きな効果を発揮してきたという。

 一方で、現時点でのAMの用途はプロトタイピング(試作品の製作)が大半(約40%)を占めており、製造補助具では1%程度、量産製造では1%未満と、非常に限定的な利用にとどまっている状況にある。

現時点でAMの適用範囲はプロトタイピングが大半を占めるが、今後は製造補助具、量産製造での活用が広がり、AM市場の成長を後押しするという 現時点でAMの適用範囲はプロトタイピングが大半を占めるが、今後は製造補助具、量産製造での活用が広がり、AM市場の成長を後押しするという[クリックで拡大] 出所:ストラタシス・ジャパン

 このような実情に対し、ザイーフ氏は「最大の成長機会は、これから本格化するであろう製造補助具と量産製造にある」と主張する。そして、この考えに基づき、Stratasysは信頼性の高いハードウェア、適切な材料、最適化されたソフトウェアを組み合わせた完全な製造ソリューションを提供することで、真の意味で「製造業の基準」を満たすAM技術の確立を目指している。

 「今、私たちはインダストリー4.0への移行という産業の大変革をリアルタイムで目撃しており、その中核にAM技術がある」とザイーフ氏は述べ、Stratasysがその変革の中心にあることを強調した。

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