製紙業はパルプから紙ではなくエタノールを作る!? 王子のパイロットプラント完成モノづくり最前線レポート(1/3 ページ)

王子ホールディングスは、鳥取県米子市の王子製紙米子工場内に、木材パルプから糖液やバイオエタノールを生産するパイロットプラントが完成したと発表した。

» 2025年05月26日 07時00分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 王子ホールディングスは2025年5月21日、鳥取県米子市の王子製紙米子工場内で、木材パルプ(以下、パルプ)から糖液やバイオエタノールを生産するパイロットプラントの竣工(しゅんこう)式を開催した。

パイロットプラントの竣工式で行われたテープカット パイロットプラントの竣工式で行われたテープカット。左から、王子ホールディングス 副社長の鎌田和彦氏、モデルのトラウデン直美氏、王子ホールディングス 代表取締役社長の磯野裕之氏、鳥取県知事の平井伸治氏、米子市長の伊木隆司氏、日吉津村長の中田達彦氏[クリックで拡大]

パイロットプラントの概要

 2025年3月に稼働を開始した今回のパイロットプラントは、パルプ輸送、糖液製造(糖化、回収)、発酵、蒸留、出荷の各工程をカバーするプラントとなっている。パルプ輸送工程では、米子工場で製造しているパルプを原料として使用するため、同プラント用に新設したパイプラインを介して既設の貯蔵タンクから糖液製造工程に送る。

パイロットプラントの外観 パイロットプラントの外観[クリックで拡大] 出所:王子ホールディングス
パイロットプラント用に新設したパイプライン パイロットプラント用に新設したパイプライン[クリックで拡大] 出所:王子ホールディングス

 糖液製造工程では、パルプに酵素「セルラーゼ」と水を混ぜて糖化反応を起こす。パルプの主成分である「セルロース」はグルコース(ブドウ糖)が鎖状に強く結合している天然の高分子化合物で、セルラーゼによって分解すれば糖液を得られる。同プラントでは、生産した糖液をそのまま出荷するケースと、発酵工程に輸送しバイオエタノールを製造するケースの両方を想定した設備を搭載。なお、糖化反応で利用したセルラーゼは分離回収が可能だ。10回繰り返し使用することで製造コストの削減につなげている。

パルプ、セルラーゼ、水を混ぜて糖化反応を起こすタンク パルプ、セルラーゼ、水を混ぜて糖化反応を起こすタンク[クリックで拡大] 出所:王子ホールディングス

 発酵工程では、木質由来のバイオエタノール生産に適した酵母を、温度や栄養成分を細かく調整して培養し、数を増やしてから、糖液と混ぜアルコール発酵を起こし、純度20%のバイオエタノールを生産する。その後、濃縮装置によりバイオエタノールを濃縮し純度を60%まで高める。ここまでバイオエタノールは水が混合した状態だ。

 蒸留工程では製品として出荷するために蒸留塔を用いてバイオエタノールから水を分離し除去する。エタノールが水よりも沸点が低い点を生かし、バイオエタノールと水が混ざった「エタノール発酵液」を加熱し、最初に蒸発するバイオエタノールを回収。蒸留塔の32mという高さを利用して蒸発と濃縮のプロセスを繰り返し純度95%のバイオエタノールを製造する。次に脱水膜を通すことでこのバイオエタノールの純度を99.5%に高める。

高さ32mの蒸留塔 高さ32mの蒸留塔[クリックで拡大]

 出荷工程では、製造した糖液とバイオエタノールを製品タンクに保管後、それぞれの出荷口からタンクローリーに注入し発送する。現時点では、糖液、純度95%と純度99.5%のバイオエタノールを出荷製品として想定。出荷を見据えて純度95%と純度99.5%のバイオエタノールは別のタンクで管理している。

 同プラントの生産量は、糖液が年間3000トン(t)で、バイオエタノールは年間1000キロリットル(kL)だ。同社 執行役員 Chief innovation Officer イノベーション推進本部 部長のの奥谷岳人氏は「パイロットプラントとしてはサイズと生産量ともに大きい。これにより大量生産時の課題を発見しやすくし、早期の量産化実現につなげていく考えだ。パイロットプラントで生産するバイオエタノールは持続可能な航空燃料(SAF)や基礎化学工業品の製造に使えるが、メインターゲットは定めていない。需要に応じて柔軟に展開していく」と述べた。

今回のパイロットプラントで生産されたバイオエタノール(左)と糖液(右) 今回のパイロットプラントで生産されたバイオエタノール(左)と糖液(右)[クリックで拡大]
       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.